ずいぶん昔の話になりますが，日本で放送された米国テレビシリーズ ”The Midnight Special” なる深夜番組があって，このとき出演した ”The Del Viking” のライブパフォーマンス ”Come Go With Me” が とても印象に残っています．この番組には，たしか ”The Penguins” も出演していたように記憶しています．テレビ番組の話はさておき， ”The Del Vikings” に関する資料は，1979年に発刊されたDooWop/R&B研究誌 "Treasure Chest Of Musty Dusties” （権藤陽一郎氏編集）のNo.4に ”Come Go With The Del Vikings” という秀逸な特集記事がありました．最も新しい資料は，“Marv Goldberg” のウェブサイト ”The Del Vikings” （2011年）が参考になります．このウェブサイトにもある通り，"The Del Vikings"，“The Del-Vikings”， "The Dell Vikings"，"The Dell-Vikings" などの名前が存在する複雑な経歴を持ったグループ．“Marv Goldberg” の資料は，長文で少し分かりにくいので，時系列的にメンバーの変遷と転機となった出来事を整理してみました．

Link > http://www.uncamarvy.com/DelVikings/delvikings.html

Ⅰ．The Pittsburgh Air Force Base Group

1955年にペンシルベニア州ピッツバーグの空軍基地に配属されたアメリカ空軍のメンバー "Kripp Johnson"， "Samuel Patterson"，"Donald Jackson"，"Clarence Quick" の4人で ”The Four Deuces” を結成．

Link : https://en.wikipedia.org/wiki/Pennsylvania
Link : http://www.uncamarvy.com/DelVikings/delvikings01.jpg

1955年11月にピッツバーグの空軍基地に配属された ”David Lerchey” がグループに加入．5人のメンバーとなったグループは，”The Del Vikings” に改名，このときバックバンドのギタリス ”Joe Lopes” がグループに追加された．1956年に "Samuel Patterson" が声の問題で航空機整備士の ”Norman Wright” に交代，この時点でメンバーは "Kripp" Johnson”，”David Lerchey”，”Norman Wright”，”Donald Jackson”，”Clarence Quick”， ”Joe Lopes”．

“The Del Vikings” は，リハーサル中の1956年10月に地元のDJ ”Barry Kaye” の地下室で9曲のアカペラの歌を録音．これを聴いた ”Fee Bee Records” のディストリビューター ”Joe Averbach” は 感銘を受け，1956年12月にピッツバーグの ”Sheraton Hotel” に設置されたスタジオとバックバンドで正式なセッションを行った．

Ⅱ．The Fee Bee Group

地元の "Fee Bee Records" と契約した "The Del Vikings" は，1956年12月に "Come Go With Me"（リードボーカル "Norman Wright” ）をリリース．このシングルレコードは，徐々に評判となり，1957年1月には "Fee Bee Records" と販売契約を取り交わしたメジャーレーベルの "Dot Records" からリリースされ，R&Bチャート2位，Popチャート4位のヒットを記録．

Link : https://en.wikipedia.org/wiki/Dot_Records

1957年２月，空軍は ”Donald Jackson” をドイツに転属させたため，”Gus Backus” がグループに加入．この時点でメンバーは，”Kripp Johnson”，”Gus Backus”， ”Norman Wright”，”David Lerchey”，”Clarence Quick”， ”Joe Lopes” ．

Ⅲ．The Mercury Group

"Mercury Records" は，グループが "Fee Bee Records" との独占的なレコーディング契約に署名したときに "Kripp Johnson" だけが21歳（米国の法的成人年齢）を超えていたことを発見，これは "Kripp Johnson" を除くほかの若いメンバーが "Fee Bee Records" または "Dot Records" の契約に拘束されていないことを意味していた．高額なトレードのチャンスを得て，1957年５月に "Norman Wright"，"David Lerchey"，"Gus Backus"， "Clarence Quick"， "Joe Lopes" は，"Mercury" グループの "The Del Vikings" として2年契約に署名．このとき "Kripp Johnson" の代役として "William Blakely"（ "Clarence Quick" のいとこ）が "Mercury" グループに加入．

Link : https://en.wikipedia.org/wiki/Mercury_Records

“Mercury” グループの最初のリリースは，1957年6月の "Cool Shake"（リードボーカル "Gus Backus” ），同じ週に "Whispering Bells"（リードボーカル ”Kripp Johnson” ）が "Fee Bee Records" と "Dot Records" の2社からリリースされ，R&Bチャート5位，Popチャート9位のヒットを記録．"Cool Shake" は，R&Bチャート9位，Popチャート12位のヒットを記録した．

"Gus Backus" は，1957年の夏にドイツの空軍基地に転属，その後ドイツに留まり，ソロのミュージシャンとして成功を収めた．"Mercury" グループは，"Gus Backus" の代わりにギタリストの "Joe Lopes" を ボーカルに昇格させた．

1957年12月に "Kripp Johnson" の "Fee Bee" 契約が切れ，"Mercury Records" のソリストに追加．1958年７月， ”Kripp Johnson” は ”Mercury” グループの最終レコーディングに参加，"Flat Tire"（リード "Norman Wright" ）と "How Could You"（リード "Kripp Johnson" ）が1958年10月にリリースされた．しかし， "Mercury" グループは "Cool Shake" 以外のヒットは無く，1959年5月までの契約を残してグループは 解散した．

Ⅳ．The Second Fee Bee Group

1957年７月，ピッツバーグのDJ ”Barry Kaye” の地下室で録音されたアカペラのオーディション・テープが浮上， "Luniverse Records" は "Come Go With Me" を含むアカペラのトラックに演奏をオーバーダビングしてリリース．このLPレコード（Luniverse LP-1000）は，"Dot Records" から訴えられ，市場から排除された．

Link > http://bsnpubs.com/roulette/luniverse.html

”Joe Averbach” と契約した時点で法的な年齢だった "Kripp Johnson" は，レコーディングを続けるために "Fee Bee Records" に残り，空軍を退役した 元 "The Del Vikings" の "Donald Jackson" がグループに復帰，新たに "Chuck Jackson"，"Arthur Budd"，"Edward Everette" がグループに加入した．

Link > https://en.wikipedia.org/wiki/Chuck_Jackson

"The Del Vikings" の名前を表記するための法廷闘争で，"Mercury Records" は "Fee Bee Records" と "Dot Records" に勝ち抜いた．この決定は，1957年10月中旬に受け継がれ，12月1日に "Fee Bee Records" の契約が満了した時点で効力を生じる．その後，"Fee Bee" グループは，"The Versatiles" に改名した．

Ⅴ．The New Del Vikings

1959年，"Mercury Records" の契約が終了後，グループは数回の迂回を経て，1960年に "Kripp Johnson"， "Billy Woodruff"，"Willie Glenn"，"Ritzy Lee"，"Doug White"，"Clarence Quick" のセクステットで "Alpine Records" に "The Sun" / "Pistol Packin' Mama"（Alpine 66）をリリースした．"ABC-Paramount Records" では，1962年までに７枚のシングルレコードをリリース，いくつかの優れたレコードを残したが，ほとんど成功しなかった．

1980年代に国内で収集した "The Del Vikings" のLPレコード．"Collectables Records" は 米国製，"Dee Jay Records" は "Mercury Records" の正規リイシュー版で旧西ドイツ製，"Pine 99 - Presenting The New ... Del Vikings" だけは 最近購入したもので，スウェーデン製と書かれた小さなシールが貼られていて年代不明，たぶん海賊盤だと思います．"Pine 99" のカバー写真には，"The New Del Vikings" のメンバー5人が写っていますが，"Clarence Quick" は 病気のために写真撮影に間に合わなかったようです．"Collectables COL-5001 - Dell Vikings 1956 Audition Tapes" は，1956年10月にDJ ”Barry Kaye” の地下室で録音されたアカペラのオーディション・テープをLPレコードにしたもの．ちなみに 1957年に "Luniverse Records" からリリースされた "Luniverse LP-1000" は，アカペラのオーディション・テープに演奏をオーバーダビングしたLPレコードで，8曲が収録されています．

"The Del Vikings" は，1957年8月頃に "Mercury" グループ全体がピッツバーグからニューヨーク北部の空軍基地に移され，９月には "The Ed Sullivan Show" に出演，このときのライブ映像が YouTubu にアップロードされています．制服を着たメンバーは，左から "Norman Wright"，"David Lerchey"，"Joe Lopes"， "Clarence Quick"． "William Blakely" だけは，出演を許されていなかったようです．

Link > https://en.wikipedia.org/wiki/The_Ed_Sullivan_Show

"The Midnight Special" の "The Del Vikings" は，1973年でしたか...　なんとも懐かしい映像をアップロードしていただき感謝の限りです．"The Del Vikings" のメンバーは，左から "Billy Woodruff"，"Ritzy Lee"， "Clarence Quick"，"Kripp Johnson"．キーボードは，"Terry Young" とあります．司会は，確かに "Jerry Lee Lewis" でした．

Link > https://en.wikipedia.org/wiki/The_Midnight_Special_(TV_series)
Link > https://en.wikipedia.org/wiki/Jerry_Lee_Lewis

"The Del Vikings" は，1999年の歴史的コンサート "DooWop50" に出演，"Norman Wright" と2人の息子， "David Lerchey" の4人で "Come Go With Me" を披露しましたが，"Norman Wright"，"David Lerchey" は 既に他界．他のオリジナルメンバー "Kripp Johnson"，"Clarence Quick"，"William Blakely" も亡くなっています．"Gus Backus"，"Chuck Jackson" は 生存，"Joe Lopes" は 2011年の時点で生存しています．

“Come Go With Me”，“Whispering Bells” のメガヒットを生み出した ”The Del Vikings” は，R＆BとR＆Rをうまく融合させたグループの一つと言われています．空軍に所属していたというユニークなメンバー構成，当時としては 珍しかった黒人と白人の混成グループといったことも，このグループの音楽スタイルに影響を与えていたように思われます．これは，R＆BチャートとPopチャートの両方で評価されたことからも分かります．“Come Go With Me” のリードボーカル “Norman Wright” は，スムーズで白人ぽいボーカルが特徴．一方 “Whispering Bells” のリードボーカル ”Kripp Johnson” は，鼻にかかるような粘りのあるボーカルが特徴．二人の対照的なボーカルスタイルが興味深い．余談ですが，”Mercury Records” への移籍騒動について，“Norman Wright” と ”Kripp Johnson” の二人は，何年も後に互いに敵対心は なかったと語っていたようです．

”Fee Bee Records” のヒットと裏腹に，”Mercury Records” では ”Cool Shake” 以外 ヒットは ありませんでした． ”Mercury” セッションでは，2枚のLPアルバムと7枚のシングルレコードをリリースしていて， この音源は なかなか捨てがたい内容．“Norman Wright” の ”Flat Tire” は，”The Medallions” の ”Buick 59” を想起させる面白いノベルティーソング．”You Cheated” ( “The Shields” のカバー) は，1958年７月に ”Mercury” グループの最終セッションに参加した ”Kripp Johnson” が レコーディングしたバラードの佳作．いずれも二人の持ち味が出た曲で気に入っています．”Fee Bee” セッション，“Mercury” セッションを通して，オリジナルメンバーによるレコーディング活動は 約3年間で終焉を迎えるのですが，残されたDooWopナンバーを久ぶりに聴いてみて，そのクオリティの高さに ”The Del Vikings” の素晴らしさをあらためて感じています．